”壁に絵を描く”という行為に、人類は先史以来、魅了されてきました。学校の教科書で誰もが目にする洞窟壁画はアートの始まりと言われており、我々の祖先の高い表現能力を示す芸術です。古い絵の上に新しい絵を重ね、思うがままに表現したその痕跡は、数万年前のものとは思えないほど自由そのものです。
そのような絵をハッと思い出させてくれるのが、現代のストリートで表現を続けるアート界の異端児”バンクシー”です。2018年にイギリスで開かれたサザビーズのオークションで、少女と赤い風船を描いた作品、通称「風船と少女」が1.5億円で落札されるや、額に仕込まれたシュレッダーで突如細断され、世界中で大きな話題となりました。日本では、港区の防潮扉に描かれたバンクシー作品と思われるネズミの絵が発見されると、東京都知事のTwitterで紹介され、大手メディアやSNSで拡散、認知度が上がりました。しかし創作活動の全貌や動機など、その真相を知る者はごくわずかで、依然として謎に包まれた存在です。