WHO IS BANKSY?

「バンクシーって誰?展」

映画のセットのような
新感覚の没入型展覧会

誰もその姿を見たことがない、神出鬼没のストリート・アーティスト、バンクシー。イギリスのブリストルで活動を開始した彼は、ロンドン、ニューヨーク、パレスチナと、世界のあらゆる場所に現れては、観る者の心をグサリと突き刺すグラフィティを描いてきた。しかしどんんあ名作であったとしても、街の中に描かれたグラフィティは、上書きされたり、壁自体が撤去されたり、さまざまな理由で失われることが少なくない。本展は、彼が世界中で投下してきた作品を一堂に集めた、まるで”おもちゃ箱をひっくり返した”ような展覧会。すでになくなってしまったものも含め、現地で作品を見るようなリアルな疑似体験をすることで、バンクシーが仕掛けた巧みなメッセージを、ぜひ心と体で感じて欲しい。

目次

Girl with Balloon

2002 London,UK

約1億5000万円での落札が決まったとたん、シュレッダーが作動して切り刻まれた赤い風船と少女の図。2014年にはシリアの子どもたちを救う「#WithSyria」キャンペーンのアイコンにもなったこの図は、2002年に初めて、ロンドン、ウォータールー橋のたもとの階段に描かれた。現在は残っていないが、当時誰かが「THERE IS ALWAYS HOPE(いつだって希望はある)」と書き加えたことで、この絵はいっそう深みを増し、人々の心に焼き付けられた。自由に人が書き加え、揶揄したり批判しながら、さまざまに解釈する。それより成熟した文化が醸成され、《Girl with Balloon》はイギリス人の誰もが愛する国民的名画となった。匿名のストリート・アーティスト、バンクシー。彼を構成しているのは、間違いなく彼を見つめ続ける「あなた自身」なのである。

実際のストリート写真

「バンクシーって誰?展」展示イメージ

London doesn't work / I love London Robbo

2004 London,UK

2004年、バンクシーが描いたネズミの絵。メッセージボードには当局への皮肉を込めて、「ロンドンは機能していない」と書かれていたが、ある日、「I♡LONDON」というダサいメッセージに書き換えられた。上書きしたのはキング・ロボ。当時、バンクシーとグラフィティ・バトルを繰り広げていた、ストリート・アートの王様だ。上書きには上書きを!世間も注目した二人の欧州は数年に及んだが、2014年、事故で昏睡状態となったロボが帰らぬ人となったことから、このバトルは完全に終わりを告げた。もしまだロボが生きていたら……、この絵は全く違ったものになっていたかもしれない。

実際のストリート写真

「バンクシーって誰?展」展示イメージ

Flower Thrower

2005 Bethlehem,Palestine

火炎瓶の代わりに全力で花束を投げる抗議者風の人物。長年パレスチナ問題に関心を寄せてきたバンクシーが、2005年頃、現地のガソリンスタンドの壁に描いた高さ5mほどの作品だ。そこから読み取れるメッセージは、憎しみと暴力の連鎖ではなく、「愛こそが平和をもたらす」という、忘れてはならない人類の共通課題。圧倒的な説得力があるのは、バンクシーがこの絵を安全なイギリスのアトリエではなく、イスラエルとパレスチナの紛争地帯で、狙撃される危険を犯して描いたということだ。バンクシーのストリート・アートは、作品とそれが描かれた「時」と「場所」が巧妙に選ばれており、分かちがたく結びついている。

実際のストリート写真

「バンクシーって誰?展」展示イメージ

Bullet-Proofed Dove

2005 Bethlehem,Palestine

『旧約聖書』の「ノアの方舟」には、大洪水が終わった後、空に放たれた鳩が、オリーブの枝をくわえて戻ってくる場面がある。これによって方舟の中のノアたちは、近くに上陸すべき新天地があることを知るのである。パレスチナ、ベツレヘム市街の壁に描かれたこの鳩も、ノアたちが待つアララト山に向かって飛んでいるのかもしれない。ところが平和の象徴であるはずの鳩は、防弾チョッキを着、その旨はすでにロック・オンされている。目の前にあるのはイスラエル軍の監視塔。イエス・キリストが生まれた街で、聖書の物語とリアルな現実が残酷に交錯する。

実際のストリート写真

「バンクシーって誰?展」展示イメージ

Barely Legal

2006 Los Angeles,USA

英語で「Elephant in the room(部屋に象がいる)」とは、「明白な問題について、誰も触れようとしない」という意味。例えば、世界では貧困が蔓延しているのに、結局誰も本気で救済しないじゃないか。そんな皮肉を込めて、バンクシーは、本格的な海外進出となったアメリカでの個展で、本物のインド象を会場である倉庫の中に展示した。部屋の壁紙と同じ豪華なダマスク模様にペイントして。「象を虐待している!」なんて批判されないように、動物に有害ではないスプレー塗料を使用している。だから個展のタイトルは、「Barely Legal(辛うじて合法)」。合法化、非合法かと、いつも問題になる自身のグラフィティ行為にもかけている。オープニングにハリウッドのセレブたちも駆けつけたこの展覧会には、3日間でなんと3万人以上が訪れた。

実際のストリート写真

「バンクシーって誰?展」展示イメージ

Whitewashing LascauX
(The Cans Festival)

2008 London,UK

動物の姿を生き生きとあらわしたラスコー洞窟の壁画。旧石器時代人がグラフィティのように壁に描いた、偉大なるアートの起源である。ところが現代におけるグラフィティの運命は儚いものだ。どんな名作も「非合法」という理由で、すぐに消されてしまうのだから。本作は、2008年バンクシーが、ウォータールー駅近くのトンネル内で行った「The Cans Festival(ザ・カンズ・フェスティバル)」で描いた作品。展示用、つまり合法的に描かれたものだが、今あなたが「バンクシー・トンネル」と呼ばれるこの場所を訪れても見ることはできない。なぜならとっくの昔に、誰かに消されてしまったから……。スラフィティはまさに、路上で自由に変化を続ける、”生きた”アートなのだ。

実際のストリート写真

「バンクシーって誰?展」展示イメージ

Hammer Boy (Better Out Than In)

2013 New York,USA

実際に道路に設置されている消火栓を、ハンマーでたたき割ろうとしている少年のシルエット。この作品は、「Better Out Than In」の20日目、アッパーウエストの建物の壁に描かれた。近くの食料品店「ZABAR'S(ゼイバーズ)」の主人らに保護され、公開されている本作は、プロジェクト中、唯一完全な形で残ったスプレー・アートで、現在も人気の撮影スポットとなっている。なかにはハンマーの下に頭を入れたり、消火栓の上に陶器を置いてポーズをとる人も……。あなたなら、どんなアイデアで撮影する?

実際のストリート写真

「バンクシーって誰?展」展示イメージ

Spy Booth

2014 Cheltenham,UK

「007」をあげるまでもなく、世界最高峰の諜報組織を持つイギリス。ここでもトレンチコートにサングラス姿のわかりやすい3人組が、本物の電話ボックスを取り囲み、通話の内容を盗聴中だ。国家の監視活動を批判したと考えられる本作は、2014年4月、イギリス、チェルトナム市の諜報機関GCHQ(英国政府通信本部)近くの建物に出現した。その後、州議会で建物ごと保護されることが決まったが、建物の老朽化を防ぐ工事中にあとかたもなくなってしまった。いったいなぜそんなことが?未だ詳細は不明である。それこそ監視しておけばよかったのに……。

実際のストリート写真

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Giant Kitten

2015 Gaza,Palestine

「なぜ、こんなところに猫の絵が?」2014年夏、7週間に及ぶイスラエルの軍事攻撃により、廃墟と化したガザ地区北部のベイトハヌーン。そこにバンクシーが残した壁画は、自身の作風とは似ても似つかぬ、なんとも愛くるしい子猫の絵だった。「SNSではガザの悲惨な現実より、もっぱら子猫の写真ばかりが見られている」。そこで世間の注目を集めるために、廃墟の中にこの絵を描くと、たちまち国際的な支援団体がこの地区の人々の援助に名乗りをあげた。すべては、型破りな発想をすぐさま行動に移したバンクシーの作戦勝ちだ。

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The Son of a Migrant from Syria

2015 Calais,France

大きな袋をかついだ見慣れた男......。ひょっとして、アップル創業者で大富豪のスティーブ・ジョブズ?そんなところで一体何をしているの?右手には昔懐かしの初代Macを下げている。2015年に起こったシリア難民危機の時、バンクシーはフランス、カレーの難民キャンプにこの絵を描いた。「難民は国のお荷物だっていうけれど、ジョブズはシリア難民の息子だぜ?その昔、彼の父親をアメリカが受け入れたから、年間70億ドルもの税金を払う、世界に冠たるアップル社ができたんだ」。そんな声明も発表した。ごもっともだが、もしあなたが国のリーダーだったら、どう考える?

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Les Miserables

2016 London,UK

コゼットが泣いている!催涙ガスの煙に包まれて。2016年1月、ロンドンのフランス大使館前の建物に現れたのは、フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴー原作のミュージカル『レ・ミゼラブル』のポスターを基にしたパロディ壁画。フランス、カレーの難民キャンプで催涙ガスが使用されたことへの抗議として描かれた。左下には、スマホで読み込めば実際の映像が見られるQRコード。「催涙ガスは使っていない」と言い張る仏警察につきつけた動かぬ証拠だ。今時のグラフィティは、YouTubeにもアクセスできる!でも、今も見られるのかな?

実際のストリート写真

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The Walled Off Hotel

2017 Bethlehem,Palestine

2017年、バンクシーがパレスチナ自治区のベツレヘム市内にオープンした「The Walled Off Hotel(壁で分断されたホテル)」。イスラエル政府が築いた高さ8m、前兆700kmにも及ぶ分離壁の目の前にあえて建つ、「世界一眺めの悪いホテル」である。世間の目を少しでもパレスチナ問題に向けさせ、その不条理を実感してもらうために作られた当ホテルは、内装もバンクシーや仲間のアーティストが担当した。唯一無二、ファン垂涎の聖地である。実際に部屋の窓から見えるのは延々と続く分離壁と、さまざまな人が書いたパレスチナ人隔離政策に対する抗議や平和への願いを込めたグラフィティ。しかし本展では、バンクシー作とみられる作品の一部をピックアップ。ある意味、「世界一眺めのいいホテル」となっている。

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Girl with a Pierced Eardrum

2014 Bristol,UK

2014年、ブリストルのレコーディング・スタジオの壁面にバンクシーが描いた《Girl with a Pierced Eardrum(硬膜の破れた少女)》。フェルメールの名作《真珠の耳飾りの少女》の効き飾りを黄色い警報器で代用したこの作品に、2020年4月22日、医療用マスクが描き加えられているのがみつかった。その後、阪kシーが、医療従事者に感謝を込めて作品を贈ったニュースが大々的に報じられたが、この絵についての本人からの発表は特になかった。少女にマスクをかけたのはバンクシーか?それとも全く別の人間か?未だ詳細は不明だが、この上なくタイムリーな作品になったことは確かだろう。

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Aachoo!!

2020 Bristol,UK

2020年12月10日、バンクシーは、新たな作品を発表した。スカーフをかぶったおばあさんが、腰を曲げるほどに盛大なくしゃみをしている本作のタイトルは「Aachoo!!」。日本語で「ハクション!!」という意味で、彼女の口からは入れ歯が勢いよく飛び出している。この絵が描かれたのは、バンクシーの故郷ブリストルにある急な坂道ヴェール・ストリート沿いの伊w。傾斜が22度もあるこの道を水平にすると、老婆のくしゃみで家が傾いたかのように見える。遊び心たっぷりの作品だが、コロナ禍に描かれたことから、マスクをつけずに飛沫やウイルスを拡散することへの警鐘とも考えられている。

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